フォントと表現

タイトルが固くなりましたが、別に難しいことを書いておりません。気楽に読んでください。

小学生の頃、冬休み明けに応募する毛筆・硬筆の書初めの練習をよくやったものでした。文字を書くのはその頃から結構好きです。上手か下手かは別にして。

この仕事を始めて、そして表札制作をしていると、自然と文字の印象や捉え方を考え込んでしまいます。

街にはたくさんの文字が溢れていますね。そしてそれぞれの職種や用途で、自然と最適な文字や色を使って表現していることが分かります。例えば「焼肉」屋さんはどんな文字を看板にしているか、何となくイメージつきますか?私は太い毛筆体で「焼肉」と書いてあるようなイメージを持ちます。

逆に硬いイメージの会社の名前はどんなイメージが必要でしょうか。 表札で選ばれやすいフォントを比較しようと並べてみました。

フォント比較

こうしてみると、ほんとに印象がそれぞれ違いますよね。

一番上のフォントは白舟隷書体です。最近正式に導入しました。一文字一文字どっしりしていて安定感を感じます。伝統や歴史を感じるので信頼感も湧いてきます。

二番目のは青柳衡山(こうざん)フォントです。きりっとした真面目さ、実直さがあるように感じます。

三番目は青柳隷書。これも隷書体独特の文字の落ち着きがあります。一文字ずつ見るとアンバランスな感じもありますが、ひと固まりになるといい味わいが出ています。

四番目は丸ゴシック。すっきりしていますが、跳ねの部分が特徴ありますね。さすが丸ゴというだけあります。真面目だけど優しい雰囲気を感じます。

五番目はほのか丸ゴシックです。ひらがなはだいぶ個性ありますが、漢字だと普通の丸ゴとほとんど似ています。むしろ丸ゴよりも真面目な感じさえします。特徴は口の一画目の下に突き抜けです。それほど印象は変わらないと思います。

六番目は国鉄方向幕フォント。最近お気に入りです。それぞれの文字の重心が下にあるので、真面目なんだけどちょっとユーモアもあるような、そんな文字です。丸ゴのように角がとれています。これも印象を和らげています。

7番目、最後はPIGMO(ピグモ)というフォントです。一文字一文字何が出るか分からないフォントです。でもこの「東京特許許可局」には一番似合っているかもしれないです。楽しい場所で行ってみたい気持ちにさせられます。

どの書体を選択するかで、こんなにも印象が違うんです。「東京特許許可局」は架空の局なので誰も先入観を持っていないはずですが、これが「○○裁判所」とか「××刑務所」など人々のイメージが定着しやすい名前だと、そのイメージに一致したフォントを使わないとずれを感じるはずです。

逆にどんな印象を持ってもらいたいか、文字の選択で変える事が出来るでしょう。会社やその団体に対するイメージすらガラリと変えることもできると思います。

文字の選び方はとても楽しいですが、私の仕事は木で文字を切り出すことです。10cmくらいの大きさだとそれぞれのフォントの特徴を表現するのは楽ですが、表札くらいの小ささではなかなか難しい時があります。難しいフォントを提案して自分の首を絞めているのでは?と思う事もあります。

また、どこまでそのフォントの持ち味を表現するかを迷う時があります。例えば先日つくった表札の文字を見てください。

森 の比較

実際に切り出した文字は、なるべく本来のゆらぎや筆の強弱を表現しています。 特に右下の木の縦棒を見てください。ちょっと強弱があるのが分かるでしょうか。

うまく表現できたと思いましたが、元の文字を知らない妻からは文字の輪郭が曲がっていると言われました。

依頼してくれるお客様とは何度もメールでフォントの選択や大きさや細かな調整を重ねてイメージ図を送っているので、どのくらい忠実に作っているかは理解していただいていると思います。妻にも頑張って説明して、何とか分かってもらいました。

自分としては、それぞれのフォントを制作した方々やその文字の成り立ちに敬意を払いたいので、なるべくその通りに切り出すつもりです。 それでも依頼してくださるお客様のご希望が一番だと思っているので、要望に応じて調整もしています。

自分の印象を変えてみたい方は、フォントの選び方にもこだわってみる事をお勧めします。

こういう事を書いていると、自分のフォントを作成してみたい気持ちがしますね。…私だけでしょうか?

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